難解極まりない超複雑な機械式時計の仕組みを“優しく”解説する『超弩級 複雑腕時計図鑑』がMEN’S EX特別編集によって発売に。ここでは、その中身をピックアップしてご紹介する。
秀逸なる構造が与えられたクロノグラフ・ムーブメント
H.モーザーの2020年は、まったく新しいコレクションの発表で幕を開けた。これまでブランドにはなかった、クッション型のケースとブレスレットとが、滑らかな曲線で融和する様子は、初期のエルゴノミクスデザインを彷彿とさせ、どこかレトロな印象である。モデル名にある通り、ブランド初のクロノグラフ搭載モデルであり、フライバック機構も備える。縦に筋目を入れたダイヤルに置く針は、すべてセンター同軸。うちスリムな2つの針がクロノグラフ用で、レッドが秒を、シルバーが分をそれぞれ積算する。クロノグラフの操作ボタンを、ケース上部の左右に配しているのも、独創的である。
搭載するムーブメントは、これまで一貫して自社製を用いてきたH.モーザーとしては、異例。精巧な設計で名高い、アジェノー社製が採用された。その構造も、極めて異例である。まず時刻表示用の輪列をドーナツ状に構築し、中央にクロノグラフ機構をユニット化してセットしているのだから。さらなる革新は、水平クラッチで連結・切り離しされるクロノグラフ車とその駆動車にある。それぞれの外縁をヤスリ状にして、その摩擦で駆動を伝達する独自のスムースホイールとしているのだ。これで作動時の針飛びは、解消される。摩擦による駆動伝達は、わずかなブレで切れるが、それを補う歯車を積層しているのも、巧妙である。
クロノグラフ車と同軸には分積算車が設置されているため、ダイヤルで秒・分積算計の各針をセンター同軸とする。分積算車には、クロノグラフ車とともに動くスネイルカムが重なり、カムに沿って動くレバーが1分間を読み取り、分積算車を1歯進める仕組みも、秀逸である。
この革新的な設計による構造美は、シースルーバックに全容を見せる。にもかかわらず、このムーブメントは、自動巻き。なんとローターは、ダイヤルの下にあるのだ。H.モーザー初のクロノグラフは、すべてにおいて異例にして斬新だ。
Point 1
ダイヤルに置く針はすべてセンター同軸
表示をすべてセンター同軸にしたダイヤルは、シンプルで視認性にも優れる。クロノグラフ用の2つの針は、切っ先を長く細く伸ばして、ダイヤル外周のインデックスを見やすく示す。時分針には、蓄光素材グロボライト®を配合したセラミック化合物が用いられている。
Point 2
摩擦で駆動を伝達する独自のスムースホイール
引き出し線が示す上側が、クロノグラフ駆動車。香箱からの駆動力を得る歯車の下にスムースホイールが重なる。下側がクロノグラフ車で、最上部がスムースホイールになっている。歯がない各ホイールは、どの位置でもスムーズに接合して駆動を伝え、針飛びを解消する。
Point 3
ローターはダイヤルの下
ムーブメントの鑑賞を妨げる自動巻きローターは、ダイヤル側に配置。ローターを固定する中央に針の軸を通す穴を設けた2枚の低摩擦金属プレートによるベアリングは回転効率に優れ、多用されるボールベアリングのように作動音がせず、回転時の振動も少ない。
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